親の介護施設への入居が決まったとき、「車はどうすればいいんだろう」と頭を抱える方は少なくありません。長年大切にしてきたマイカーをどのタイミングで手放すのか、免許返納はいつすべきなのか、施設に入ったあとの通院や外出はどうなるのか——こうした疑問は、いざ直面してみると意外と情報が少なく、戸惑う方が多いテーマです。
実際、介護施設への入居前後には「車」に関する判断が複数重なります。免許の自主返納、マイカーの売却や名義変更、施設の送迎サービスの確認、通院手段の確保——どれも一つひとつはそれほど難しくないのですが、同時に考えようとすると整理しにくいのです。
この記事では、介護施設と車の問題を順番に整理しながら、処分のタイミングから施設の送迎サービス・介護タクシーの活用まで、実用的な情報をお伝えします。
介護施設への入居前に車をどうするか考えよう

介護施設への入居が近づくと、多くの家族が「車のこと、どこかのタイミングで動かないといけないな」と感じながら後回しにしがちです。しかし、車に関する手続きは意外とやることが多く、早めに動いておくほうがスムーズです。このセクションでは、入居前に検討すべき車の扱いについて整理します。
マイカーをそのまま持ち込める施設の種類
「施設に入ったあとも車に乗り続けたい」という方は、まず施設の種類を確認する必要があります。結論から言うと、一般的な介護付き有料老人ホームや特別養護老人ホームでは、入居者がマイカーを持ち込んで自分で運転することはほぼ想定されていません。
理由は明確で、要介護・要支援状態の方が施設の管理外で自動車を運転することは、事故リスクの観点から施設側が許可できないためです。また、都市部の施設では敷地が限られており、入居者用の駐車スペースを確保できないケースが大半です。
一方で、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)や住宅型有料老人ホームの一部では、入居者が自分の判断で車を保有・運転できる場合があります。サ高住は一般的な賃貸住宅に近い位置づけのため、まだ自立度が高い方が入居するケースも多く、駐車場を完備している施設も存在します。
施設選びの段階で「車を継続して使いたい」という希望がある場合は、見学時に駐車場の有無と入居者の自動車利用に関するルールを必ず確認してください。ただし、要介護度が高まるにつれて自動車の運転自体が難しくなることは念頭に置いておく必要があります。
サ高住や住宅型有料老人ホームでも、認知症が進行している場合は施設側から運転の中止をお願いされることがあります。入居前に施設の方針をしっかり確認しましょう。
免許返納の最適なタイミングと手続き
「免許はいつ返納すればいいのか」という問いには、正直なところ「これが最適」という一つの正解はありません。ただ、私が見てきたケースからすると、施設入居が確定したタイミング、あるいは入居前後の落ち着いた時期に手続きするのが現実的だと思っています。
免許の自主返納は、住所地を管轄する警察署または運転免許センターで手続きできます。福岡県では、福岡運転免許試験場(花畑)や各警察署の窓口で受け付けています。手続き自体はそれほど難しくなく、免許証を持参して申請書を記入すれば完了します。
返納後は「運転経歴証明書」が発行されます。これは身分証明書として使えるほか、福岡県内の協賛店舗でさまざまな特典を受けられるものです。福岡市地下鉄では、返納後に nimoca や はやかけんを購入すると3,000ポイントが付与される制度もあります(要件あり)。
なお、福岡県では運転免許を自主返納した高齢者を対象に、さまざまな支援サービスを紹介しています。タクシー割引やバス優待など、地域によって内容が異なるため、返納前に確認しておくことをおすすめします。詳細は(出典:福岡県庁 運転免許を返納等された高齢者に対する支援サービスの紹介)をご覧ください。
免許返納のポイントまとめ
・手続き場所:各警察署または運転免許センター
・返納後は「運転経歴証明書」が身分証として使える
・福岡市や各市町村の独自特典(交通費補助等)を確認しよう
売却・名義変更・廃車の選択と注意点
免許返納と並行して、または返納後に考えなければならないのが車の処分です。主な選択肢は①売却、②家族への名義変更、③廃車(一時抹消・永久抹消)の3つです。
売却を選ぶ場合、車両の査定額は走行距離・年式・状態によって大きく変わります。免許返納前から「使わなくなった車」として扱われ始めると、状態が悪化して査定額が下がることもあります。「施設入居が決まった段階で早めに売る」のが、損をしにくいタイミングです。自動車税は毎年4月1日の所有者に課されるため、3月中に手続きを終えると月割還付が多くなります。
家族への名義変更は、子どもや孫が引き続き車を使いたい場合の選択肢です。生前贈与になりますが、110万円以下の贈与税非課税枠の活用や、相続時精算課税制度(2,500万円まで非課税)を使う方法もあります。名義変更の手続きは、普通車は最寄りの運輸支局、軽自動車は軽自動車検査協会で行います。
廃車は、車が古くて売却価値がない場合や、家族が引き継がない場合の選択肢です。永久抹消(解体)すると自動車税の月割還付と自賠責保険の返戻金を受け取れます。
任意保険の「中断証明書」を忘れずに:車を手放す際に任意保険を解約するときは、保険会社に「中断証明書」の発行を依頼してください。将来、家族が新たに車を購入した際に等級(ノンフリート等級)を引き継げる場合があります。そのまま解約すると等級がリセットされてしまいます。
任意保険の中断証明書を忘れずに取得する
車を手放すときに見落としがちなのが、任意自動車保険の扱いです。売却や廃車に伴って保険を解約する場合、通常は解約返戻金が戻ってきます。しかし、それだけで手続きを終えてしまうと、長年かけて育てた等級(割引率)が消えてしまいます。
保険会社に「中断証明書」を申請しておけば、最大10年間(会社によって異なる)にわたって等級を保存できます。これがあれば、子どもや孫が新車を購入した際に等級を引き継いで保険料を節約できます。
中断証明書の申請は、車検証(または廃車証明書)と免許証を用意して保険会社に連絡するだけです。電話一本で対応してくれる会社がほとんどなので、解約手続きと同時に必ず申請しておくことをおすすめします。
施設への入居準備はやることが多く、こういった細かな手続きが後回しになりがちです。「車の処分リスト」として事前にまとめておくと、もれなく対応できます。施設入居の全体的な流れについては、一人暮らしの親を施設に入れる時期と手順もあわせてご覧ください。
介護施設で車を使った外出・送迎サービスの実態

施設に入居してからも、外出や通院の機会はあります。「施設に入ったら家族が全部送迎しないといけないの?」と心配される方も多いのですが、実際にはさまざまなサービスや制度が使えます。このセクションでは、介護施設での送迎・外出支援の実態を解説します。
デイサービスの送迎範囲と利用条件
デイサービス(通所介護)を利用している方にとって、送迎は日常的なサービスの一つです。デイサービスの送迎は介護保険のサービス費に含まれており、自宅と施設の間を専用車で送り迎えしてもらえます。
送迎の範囲は、一般的に施設から車で30〜40分以内のエリアが目安とされています。ただし、施設によって対応できるエリアは異なります。自宅が施設から遠い場合は、事前に送迎対応エリアかどうかを確認してください。
送迎車の種類も施設によってさまざまです。一般的なワゴン車のほか、車椅子のまま乗車できるリフト付き車両(福祉車両)を備えている施設も多くあります。車椅子を使用している方や、乗り降りに介助が必要な方は、施設に福祉車両の有無を確認しておきましょう。
送迎ドライバーは、普通自動車第一種免許で対応できるため、専任のドライバーがいる施設もあれば、介護職員が兼務している施設もあります。乗り降りの際の介助が必要な場合は、介護の資格を持ったスタッフが対応しているかも確認ポイントになります。
デイサービスの送迎は自宅玄関まで来てくれるのが基本です。ただし、マンションの高層階や狭い路地など、車が入れない場所の場合は、ある程度まで歩いて出てもらう必要が生じることもあります。
通院時の送迎対応と家族の負担
入居型の介護施設(有料老人ホーム・特養など)における通院時の送迎は、デイサービスとは扱いが異なります。施設が提携している医療機関への定期受診であれば施設スタッフが対応してくれることもありますが、かかりつけ病院への通院となると、多くの場合は家族が送迎するか、介護タクシーを手配する必要があります。
これは施設の人員配置の問題が大きく関係しています。介護施設のスタッフは施設内のケアに配置されており、通院付き添いのために人員を割くことが難しいのが現状です。施設によっては「付き添い対応は家族にお願いしたい」と入居前に説明される場合もあります。
通院の頻度が高い方や、複数の病院にかかっている方にとっては、家族の送迎負担が大きくなりがちです。入居前の段階で、通院先を施設の協力医療機関や往診・訪問診療に切り替えることを検討しておくと、入居後の負担を大幅に減らせます。
在宅での介護負担が限界に達しているケースでも、施設入居後の通院問題が新たな課題になることがあります。介護疲れのご相談については在宅介護に限界を感じたときの相談先と対処法もあわせて参考にしてください。
介護タクシーを上手に活用する方法
家族による送迎が難しい場合の有力な選択肢が「介護タクシー」です。介護タクシーは、要介護認定を受けた方の通院・外出をサポートするために特化した移動サービスで、福祉車両(車椅子対応リフト付き等)を使用しているのが特徴です。
介護タクシーには大きく2種類あります。一つは介護保険適用の「訪問介護の通院等乗降介助」で、介護福祉士やヘルパーが乗降を介助しながら送迎してくれます。もう一つは介護保険外(自費)のタクシーで、介護保険の対象外となる移動にも対応してくれます。
介護保険適用の通院等乗降介助を使う場合は、ケアマネジャーにケアプランへの組み込みを依頼します。この場合、乗車・降車の介助部分に介護保険が適用され、自己負担を抑えられます(交通費は全額自己負担となります)。
介護タクシーを探す際は、施設のケアマネジャーに相談するのが最も早い方法です。地域でよく使われる事業者を把握しており、手配のサポートをしてもらえることが多いです。自分で探す場合は「福岡市 介護タクシー」で検索すると事業者一覧が見つかります。
介護タクシー活用のポイント
・介護保険適用か自費かで料金が大きく変わる
・ケアマネジャーに相談してケアプランに組み込んでもらう
・事前予約が必要なことが多いため、通院日に合わせて早めに手配する
福岡市の移送サービスと免許返納後の移動支援
福岡市には、高齢者の移動を支援する公的な制度がいくつか用意されています。
移送サービス(寝台タクシー利用助成)は、寝たきりのため一般の交通機関を利用することが困難な高齢者を対象に、寝台タクシー料金の一部を助成する制度です。対象は65歳以上で要介護4または5の認定を受けており、座位を保てない方。年間4枚の利用券が給付されます。申請は各区保健福祉センターまたは郵送・マイナポータルで受け付けています。
高齢者乗車券は、70歳以上の高齢者に対して年額最大6,000円分の交通費(市内のバス・地下鉄等)を助成する制度です(所得要件あり)。免許返納後の日常的な外出にも使え、バスや地下鉄での移動コストを抑えられます。毎年申請が必要なため、更新漏れに注意してください。
また、各市町村でも独自の支援策を設けているところがあります。福岡市以外の市町村(北九州市・久留米市・太宰府市など)に在住の場合は、各市町村の窓口か地域包括支援センターに問い合わせてみてください。免許返納後の移動支援については、居住地の窓口に相談するのが確実です。
訪問診療への切り替えで通院負担を減らす
「通院の送迎が大変」という問題を根本的に解消する方法として、訪問診療(往診)への切り替えがあります。訪問診療は、医師が定期的に施設や自宅に訪問して診察・処方を行うサービスで、医療保険が適用されます。
介護施設では、協力医療機関との連携によって定期的な訪問診療が組み込まれているケースが多くあります。内科・皮膚科・眼科など複数の科目に対応している訪問診療クリニックも増えており、通院していた病院と同等、または近い診療を施設内で受けられるケースも出てきています。
ただし、手術や高度な検査が必要な場合は従来の病院への通院・入院が必要になります。訪問診療に切り替えた後も、緊急時の対応病院を決めておくことは重要です。施設入居前に、施設側に「どの病院と協力体制があるか」「訪問診療はどの科目まで対応しているか」を確認しておくと安心です。
私の経験上、訪問診療に切り替えることで家族の通院対応が月に何度もある状態から、ほぼゼロになったというケースは珍しくありません。特に複数の病院に通っていた方の場合、入居前に主治医と相談して訪問診療に移行できないか確認することを強くおすすめします。
訪問診療切り替え前に確認すること
・入居予定の施設が連携している訪問診療クリニックと対応科目
・現在のかかりつけ医が訪問診療に対応しているか(または紹介状が必要か)
・緊急時・入院時の連携先病院はどこか
まとめ:介護施設と車の問題は入居前に整理しておこう

介護施設と車の問題は、入居のバタバタした時期に後回しにしがちですが、早めに整理しておくことで家族全員の負担が減ります。最後に、この記事でお伝えした要点をまとめます。
介護施設への入居時に車をどうするかは、まず施設の種類によって選択肢が変わります。サ高住など自立度の高い方向けの施設なら車を保有し続けられる場合もありますが、介護付き有料老人ホームや特養では基本的に入居者の自動車運転は想定されていません。
免許の自主返納は施設入居が確定したタイミングが自然な区切りです。福岡県では免許返納後の交通費補助や特典制度が整っており、返納後の移動手段についても事前に調べておくと安心です。車の処分は売却・名義変更・廃車から状況に合った方法を選び、任意保険の中断証明書も忘れず取得してください。
施設入居後の外出・通院については、デイサービスの送迎は介護保険内で対応できますが、病院への通院は家族や介護タクシーに頼るケースが多いのが現状です。可能であれば訪問診療への切り替えを検討し、通院の頻度そのものを減らすことが根本的な解決策になります。福岡市には移送サービスや高齢者乗車券など公的な支援制度もあります。
「施設入居の準備で手いっぱいで車まで考えられない」という方も多いと思います。しかし、車に関する手続きを後回しにすると、自動車税の無駄払いや保険の等級消滅といった経済的な損失につながることもあります。優先順位をつけながら、一つずつ対処していきましょう。
施設探しでお悩みの方へ
「何から始めればいいか分からない」「費用が心配」「急いで施設を探している」など、介護に関するお悩みは一人で抱え込まないでください。
福岡介護ナビでは、福岡県内の老人ホーム・介護施設に関する情報をまとめています。まずは情報収集から始めてみてください。
※本記事の内容は、私自身の知見や一般的な情報提供を目的としており、特定の施設・サービスを推薦するものではありません。正確な情報は公式サイトや担当窓口にてご確認ください。最終的な判断は専門家や担当のケアマネジャーにご相談ください。